嶋本 顕人
迷っていた学生時代に出会ったリハ医学
自身が初めてリハビリテーション医学に出会ったのは6年生のポリクリでの出来事でした。それまで自分自身は、大学入学時から社会医学などに興味を持ち厚生労働省の医系技官というキャリアを考えながらも、様々な課外活動などに参加していました。5年生の時には人間中心というキーワードを大事にしつつイノベーション手法を学ぶ学外プログラムに参加していました。また6年生の際に、アート×福祉というテーマで社会人向け講座を開いている、ある芸術大学のプログラムに参加しました。その中では様々なバックグラウンドを持つ人と一緒にワークショップをしたり、’いわゆる’社会的マイノリティの多数のご講演を聞いたりする機会を持つことができました。しかし、そういった文脈において医学はある種、無力でした。というのもほとんどの医学は「治癒」や「予防」といったような疾病を0にすることに根本的な価値を置いていて、ある程度定常化してしまった障害に対してできることは少なかったからです。そこから現代の医療ではこぼれ落ちてしまう人に対して医学は何ができるのだろうか?」
その場で医学部生として参加していた自分はモヤモヤしていました。 そんな時、6年生のポリクリで出会ったのがリハビリ医学でした。ICFという考え方などのもと、「活動」を基軸として患者さんにアプローチできる医学分野は、必ずしも「治癒」できない人であったとしても最後までアプローチが出来る方法として、悩んでいた自分にとってとても魅力的な医学でした。さらには医療機器や福祉機器の開発など人間中心のイノベーションもあふれていたことはイノベーション手法を学んでいた自分のスキルが活きるのではないか、また急性期・回復期・生活期など様々な患者さんのフェーズを見たり難病患者の社会サポートや脳卒中患者の在宅復帰に関わって社会的支援に携わったりすることは、社会医学という観点でもつながるのではないかと、すべてがつながったような感じがしたのです。 リハビリ医学はまさしく「ワクワクランド」でブルーオーシャンな領域だと感じたのです。
それでも悩む進路とリハビリ医学の面白み
リハビリ医学も将来の進路として考えようと思い初期研修医先を選びましたが、いざ病院で働き始めると自身が「医者」の立場になることもあって、どうしてもキラキラした「救急科」や「内科」にだんだんと興味が惹かれていってしまいます。自分が「治している」ことが目にみえて、やった感がとてもあるからですし、実際にやりがいのある仕事です。またリハビリというと何が専門性なんだろうか、本当にやっていけるのだろうかという漠然とした不安もありました。ただそういった中でも、退院後に続く生活を見据えられたり、一般的にはもういいだろうと見捨てられてしまいそうな食事を食べられない人に、粘ってその人の人生を豊かしたりする試みはやはりリハビリ医学にしかできないものでした。
また社会にアプローチすることができる厚生労働省の医系技官という進路はやはり自分では捨てがたいもので、リハビリ医学と相性がいいだろうということで、最終的にリハビリ医学を後期研修として選ぶこととしました。研修先としては別の大学も検討しましたが、最終的には自分の学生の時に出会った衝撃と、自由闊達に多様な活動をされ、自分が将来医系技官に行く可能性に関しても許容してくれる教室の雰囲気から、母校に戻ることとしました。 いざリハビリ科として働き始めると、当初考えていた「何が専門性なんだろうか、本当にやっていけるのだろうかという漠然とした不安」はなくなりました。上の先生から質問される多くが2年間初期研修で学んできた医学とは全く別の分野のことであり、手技に関しても嚥下造影検査や神経伝導検査・針筋電図検査などの奥深い手技もありました。
リハビリ科医はgeneralistというよりもspecialistであり、間違いなく確固たる専門分野なのだと思いました。 私たちリハビリ科医は、各領域におけるリハビリ専門職である理学療法士や作業療法士、言語聴覚士と対等に議論をできるレベルになければならず、それには3職種分の勉強をしなければなりません。また急性期病院においてリハビリテーション方針を他科と話す際にはその領域もある程度理解していなければいけないし、他方で回復期リハビリテーション病棟で働くときには主治医として働くので内科としての勉強も必要です。そのように考えると、リハビリ科医が勉強することは無限なのではないかと思います。それはしんどいことである一方でとても面白いことでもあるはずです。
あらゆる医学領域において診療ガイドラインが策定され、ある程度はフローチャート化して誰もが均てん化した医療行為が提供される中、診療を続けるとどこかでプラトーに達した感覚を得ることも多いのではないかと想像します(もちろん、さらなる高みを目指す匠の領域にはかなりの時間を要することは言うまでもありませんが)。しかし、リハビリテーション領域は、目の前にいる患者さんのニーズも極めて多様でそのニーズに応えるためにはあらゆる領域を勉強しなければならず、飽きは一生来ないのではないかと思います。そして研究もまだまだ発展中の分野であり解明しなければいけない領域はとても多様です。その中には分子生物のものもあれば社会を対象としたものまであり、興味を持てる分野が絶対あるはずです。
慶應医局の強み
リハビリテーション医学はとても幅広く、そして活躍する領域も極めて多様です。そんな中で慶應のリハビリテーション科は多様な専門分野や思考をもつ先輩方が多数おり、相談しやすいことが強みなのではないかと思います。そして、リハビリテーション医学という一つのキーワードを持って各種の方面に活躍する医局員を応援してくれる自由闊達な雰囲気はかけがえのないものです。
これを読んでいる人たちはおそらくリハビリテーション医学の何かに引っかかっている人だと思います。その何かを育みながら、リハビリテーション医学を極めることができるのが慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室だと思っています。ぜひ皆さんも見学に来て、いろいろな先生方と話してみてください!そして、リハビリテーション医学を通じて患者さんや人々をより‘健康’にできることを手伝いませんか?
嶋本 顕人
慶應義塾大学卒
2021年度入局
2021年 慶應義塾大学病院
2022年 国立精神・神経医療研究センター
どんなことにも真摯に取り組み、だれもが認める努力家。リハビリ科専門医だけでなく、医系技官を目指し様々な活動に参加するほどにバイタリティあふれています。未来のリハビリ医療をより良くするため日々奮闘中。