川畑 有紗

前を向く診療科、リハビリテーション科

どうして先生はリハビリテーション科を選んだのですか?」 研修医の先生や大学の後輩によく聞かれる質問です。その時に私はいつも「リハビリテーション科は”前を向く診療科”だから」と答えています。 当医局では全員が初めからリハビリテーション科を志望していたわけではありません。私も大学在学中から初期臨床研修前半までは脳神経内科志望でした。画像や検体検査だけでなく、神経診察から病態や病巣を類推し診断治療に繋げる点に魅力を感じていたからです。初期臨床研修は神経変性疾患も多く経験できる病院を選び、様々の経験と学びを得ることができました。

しかし研修を進めていく中で神経医学の奥深さにより魅了されると共に、脳卒中で麻痺や高次脳機能障害が生じた患者さん、神経筋疾患として診断はついたけど根本的な治療が無い患者さんから、今後の生活について不安を聞く経験が何回かありました。もちろん、脳神経内科疾患の中には治療法が確立されているものもありますし、脳血管内治療、ゲノム治療などの新規治療法の研究も進められており、完治や病気の進行を遅らせることのできる疾患も数多くあります。しかし果たして今後の医師人生の中で取り組みたいこと、そして一番やりがいがあると感じる分野はどの診療科なのだろうか。

診断学の追求や治療開発だけでなく、目の前の患者さんがまさしく今困っていること、そして今後影響を受けるであろう日常生活や活動についてサポートできる診療科は無いのだろうか・・・。研修医1年目が終わり医師として2度目の春を迎えた頃からふと、そんな想いが自分の頭に浮かぶようになっていました。 その時に思い出したのが、医学部時代にリハビリテーション科の講義で聞いた国際障害分類による「障害の三相構造」です。皆さん国家試験で勉強したかもしれませんが、例えば脳梗塞では「片麻痺、失語といった”機能障害”が生じた先に、歩行障害、ADL障害、コミュニケーション障害などの”能力低下”があり、それによって復職困難、自宅退院困難などの”社会的不利”が生じる」といった具合に、患者さんが抱えている複数の障害や課題を俯瞰的に把握しつつ目標となる生活を描き、具体的なリハビリテーション計画や介護サービスの導入、自宅環境調整も行います。

同じ脳梗塞という疾患でも、診療の視点が治療や診断に加えて病院外の生活にも及ぶリハビリテーション科は他の診療科と一線を画しており、私にとてもマッチしているように感じました。病気により障害が残存してしまったとしても、「どうすればその人らしい生活を送れるのか」を考える。私にとってリハビリテーション科は「障害を生じた時が診療のスタート」であり、「次の生活を見据えて、常に未来(まえ)を向く診療科」なのです。この診療科に出会えたこと、そして自分がリハビリテーション科医師として働けていることに誇りを持っています。

新生児から終末期までを診る診療科、リハビリテーション科

そこで進路をリハビリテーション科に変更し、専門研修可能な基幹病院の中でもニューロリハビリテーションを始めとした先端治療を実践しているだけでなく、医局としての歴史と人材、教育体制が揃っている慶應義塾大学リハビリテーション医学教室の門を叩くことにしました。入局1年目は慶應義塾大学病院で急性期リハビリテーション治療を、2年目である今年は国立病院機構東埼玉病院で回復期リハビリテーション治療を中心に診療活動を行っています。

慶應義塾大学病院では先端的な神経リハビリテーション入院目的にいらっしゃる患者さんを担当するだけでなく、他科からのリハビリテーション依頼への対応も行います。NICUに入院している新生児には成長を見越した小児リハビリテーション、がん終末期の患者さんには残り少ない時間をその人らしく過ごすための機能維持、環境調整を行うがんリハビリテーションなど…。対象とする疾患は脳血管障害や整形外科疾患だけでなく、非常に多岐に渡ります。

もともと脳神経内科疾患に関連したリハビリテーションに興味があって入局しましたが、ほぼ全ての診療科にリハビリテーション科医師としての専門性をもって携わることのできるのは入局後に改めて認識できた当科の面白さです。「リハビリテーション科はgeneralistでありspecialistでもある」と言われますが、まさにその通りだと思います。そして現在所属している東埼玉病院は、回復期リハビリテーション病棟の他に筋ジストロフィー、ALSなどの神経疾患の患者さんが入院される脳神経内科病棟や、重症心身障害児や筋ジストロフィーの患者さん向けの療養病棟も有しています。

回復期病棟では主治医としてチーム診療に参加し、神経難病のリハビリテーションでは意志伝達装置や電動車椅子作成、嚥下機能評価、退院後の環境設定など、他の病院ではなかなか経験できないケースも担当しています。確かにリハビリテーション科は根本的な治療に繋がらないことも多いですが、研修医の時に目にしたあの患者さんの不安な表情が少しでも安堵の表情に変わる瞬間に立ち会えるのは、何事にも代え難いやりがいを感じています。まだまだ知識不足で上級医や療法士の先生方にご指導いただくことも多いのですが、日々学びの多い研修生活を送っています。

よくわからない診療科?、リハビリテーション科

「リハビリテーション科医の仕事がイメージつきません」 これも頻繁に他科の先生や研修医の先生から伺うご意見です。全国約80ある医学部の中でリハビリテーション医学教室が設置されている大学は約半数と少なく、学生時代にリハビリテーション医学の授業が無かった方も多いのではないでしょうか。しかし我々は生活と活動を診る診療科であり、対象とする患者さんは全ての診療科と言っても過言ではありません。

患者さんのADL、QOLをより良くする為にはリハビリテーション科医師を増やすだけでなく、一緒に働く他科の先生にもリハビリテーション科医の得意分野、専門性を知っていただくことが必要だと考えています。そこで個人的な今後の目標としては、リハビリテーション科専門医として知識と経験を積むのはもちろんのこと、他の診療科に進む学生さんや研修医の先生にこそ少しでもリハビリテーション科のことを知ってもらう為に、勉強会開催や広報活動など何かアクションを起こしたいと考えています。

今こそリハビリテーション科に相談してみよう

そんな言葉を少しでも多く、臨床現場で聞こえるために力を尽くしたいと思っています。 少しでも当科に興味のある先生がいらっしゃいましたら、お気軽に見学にいらしてください。皆様のご来局を心より楽しみにしています。

川畑 有紗

杏林大学卒

2021年度入局
2021年 慶應義塾大学病院
2022年 国立病院機構東埼玉病院

いつも姿勢がよく、前向きな人で、笑顔と優しさから患者さんのみならずスタッフからも大人気です。勉強熱心でプレゼン上手。おしゃれなカフェやスイーツにも精通しており、困ったときは彼女に聞きましょう。東京での生活が充実すること間違いなし。